2021年(第22回コンクール)IPMカトヴィツェ賞受賞 西尾 翔登さん[2022年7月渡航]

はじめに

皆様、ご閲覧いただきましてありがとうございます。この度、第22回ショパン国際コンクール in ASIAの副賞として、初めてポーランドへ行って参りました。自分自身が最も尊敬するショパンの故郷で何を学び、何を感じたのか。是非、最後までお読みいただけたら幸いです。

肌で感じたポーランドの芸術

私がポーランドの地に辿り着いたとき、最初に感じたことは町並みの美しさでした。ワルシャワ・ショパン国際空港の周辺は比較的、現代の建築様式の建物が多く高層ビルがいくつもありましたが今回のマスタークラスの会場でもあるカトヴィツェの町並みは、レンガ造りの、どこか中世ヨーロッパを感じさせる建物が並び、古くから残る教会や豊かな自然を感じることができる公園なども多くありました。今回お伺いしたカトヴィツェ音楽院も立派なレンガ造りの建物の一つで、私にとってはこの町並みを見渡すだけで芸術的な感性を養うことができる場所だと感じました。ポーランドは都市によって町並みが大きく変わります。カトヴィツェを離れクラクフという都市を初めて見たとき、私はつい別の国に到着したのではないかと感じてしまいました。

駅から5分ほど歩くと、そこには見渡す限りの壮大な歴史的建造物に溢れた旧市街がありました。街には馬車が通り、思わずため息が出るほどの圧倒的な美しさを持つゴシック様式の聖マリア教会、街中に響き渡るアコーディオンの音色、そしてその迫力により鳥肌が立ってしまうほどのヴァヴェル城など、今でも思い返すとこの目でもう一度見てみたいと感じるほどの圧倒的な町並みがそこにはありました。中でも細部まで装飾にこだわり、黄金や銀で溢れた聖マリア教会は、私がレッスンの先生に「教会をイメージして弾くように」とアドバイスをいただくと、真っ先に頭の中で思い浮かぶ教会です。全ての建造物が必ず自分の芸術的な財産になる国でした。

マスタークラス

カトヴィツェ音楽院(=シマノフスキ音楽大学)でのマスタークラス、私は大学に入ることすら緊張してしまいかなり身構えてしまいましたが、同じくマスタークラスに参加していて、フランスから来られた学生の方が声をかけてくださり、お互いのことを話しているうちに友達になりました。今でも彼とは連絡を取っていて、日常の他愛もない会話はもちろんですが、時にはショパンの作品の素晴らしさについて語る日もあります。私はヤシンスキ先生とフィリップ・ジュジアーノ先生のレッスンを2 回ずつ受講させていただきました。ヤシンスキ先生は美しい響きをどう作るかということを常にお教えくださいました。僅かなペダリングの変化、同じ8分休符でもそれぞれどう歌い分けるか、旋律に含まれる一つ一つの音符をどのように感じることでその旋律全体の響きが変わってくるのか、指先の使い方によっての響きの変化など、私にとっては開いた口が塞がらないほどの感動と発見で満ち溢れていたレッスンでした。フィリップ・ジュジアーノ先生は楽譜を細かい部分までどのように読譜をしていくか、そしてその読譜の結果、どのようにショパンを歌うか、というレッスンでした。先生方からは本当にご温情を賜り、期間中にいただいたコンサートでも直前までメッセージをくださったり、終演後に沢山のご感想をいただきました。私にとって、一生忘れることのない経験となりました。

ショパンの足跡

マスタークラスとコンサートを無事終えた後、私はショパンの生家や銅像が建てられているワジェンキ公園、ショパン博物館、さらにはショパンの心臓が眠る聖十字架教会など、ショパンゆかりの地を訪れ学びました。景観は長い年月を経て、当時のものとは変わってしまっているかもしれませんが、彼がどのような景色を見て育ち、何を感じて曲を書いたか、どこで誰と出会い、またどんな状況で誰に宛てた手紙を書いたのか、彼が愛したポーランドという国の歴史をも深く学ぶことができました。私が帰国して最初にショパンの楽譜を開いたとき、今まで見ていた彼の楽譜が、次第に彼が残した日記のように見えていきました。これは私が実際にポーランドでショパンに触れることができたからだと感じています。

最後に

ポーランドには、想像を超える芸術との出会いや発見、そしてショパンがまだ生きているのではないかと感じてしまうほどの彼の足跡がはっきりと残っています。そして音楽と共に生きていくことのできる喜びや有り難みをあらためて感じさせてくれる国だと思っています。実際に訪れ、肌でポーランドの芸術に触れ合うことで、それは必ず生涯忘れることのない大きな財産となるはずと思っています。最後までお読みくださりありがとうございました。